プリズマジャーナルTOP初心者向け! 小売業のデータ分析【基礎編】売上の因数分解から始めよう
初心者向け! 小売業のデータ分析【基礎編】売上の因数分解から始めよう

初心者向け! 小売業のデータ分析【基礎編】売上の因数分解から始めよう

多くの小売業や外食業では、売上をアップさせるため、日々試行錯誤を繰り返しているかと思います。私自身も前職では、営業現場およびマーケティングの責任者として、売上向上の為の仮説と検証を繰り返してきました。そこで今回は、基礎的なことではありますが奥の深い、データ分析の為の“売上の因数分解”について解説します。

1. 「売上 = 客数 × 客単価」売上を因数分解して分析する

キャンペーンを開催したり、新商品を発売したり、小売の現場では売上を上げるために様々な施策を打ち出しています。そして売上が上がった、下がったで一喜一憂していることと思います。ただ、売上を単純にモニタリングするだけでは、実際はその施策の評価は出来ません。

私は前職、コンビニエンスストアに勤めておりました。その際、天候の影響は非常に大きく、特に春から夏にかけての時期は売上が大きく左右されました。大型キャンペーンを展開したタイミングで天候悪化に見舞われると、かなり落ち込んだものです。

そこで、売上はただその上下を見るだけで無く、因数分解し、分析する必要があります。今回は「基礎編」ということで、まず、売上を下記のように分解して考えてみましょう。

売上 = 客数 × 客単価
ここでいう「客数」は、リアル店舗の「レジ通過数」、ECの「注文数」に当たります。次の項からは、売上に対して客数と客単価が、それぞれどう影響するのか、見ていきます。

2. 「客単価 = 買上点数 × 1点単価」客単価UPの為の、分析と対策

客単価は下記のように因数分解できます。

客単価 = 買上点数 × 1点単価
「買上点数」は、購入した商品点数のこと。「1点単価」は、商品1点当たりの平均売価のことです。例えば、おにぎり(120円)2個とペットボトルのお茶(150円)1本を購入した場合、それぞれの数字は下記のようになります。

おにぎり(2個)+お茶(1本)=買上点数 3点
(おにぎり120円×2個+お茶150円×1本)÷3点=1点単価 130円

これらをそれぞれどう分析し、どうやって対策を打つのが良いのか、考えてみましょう。

買上点数

買上点数を上げるためには、お客様に同時に複数商品を購入して頂けるよう、対策を練る必要があります。そのために行うのがバスケット分析(買い合わせ分析)となります。買い物かご(バスケット)にどんな組み合わせで商品が入れられて購入に至るのか、それを分析する手法です。

バスケット分析を行い、よく発生する商品の買い合わせが把握できたら、下記のような対策を実施します。

・買い合わせを意識したキャンペーン、販促を実施
・買い合わせをしやすい売場づくり

よくコンビニの店頭で「おにぎりとお茶で○○円引き」、「ビールとお惣菜で○○%OFF」といった販促があると思います。これが、買い合わせを誘発させる仕掛けとなります。

買い合わせをしやすい売場づくりとしては、下記のような施策を実施します。

・買い合わせの多い組み合わせの売場を近くに配置
・買い合わせで買われることが多くかつ購入頻度も高い商材を、店内で買い回りがされやすい場所に配置

例えばスーパーで「挽肉の近くに餃子の皮を配置」、「白菜の近くに鍋スープを配置」といった売場となっているのは、買い合わせを期待しての売り場づくりがされているということです。

コンビニの売場でソフトドリンクが店内奥にあるのは、買い合わせも多く、購入頻度が高い商品だからです。このような商品を店舗の奥に配置することにより、お客様に店内全体を見てもらい買い合わせを促進したい、というわけです。

ECサイトにおいては、レコメンドも買上点数UPの為の有効な施策となります。

1点単価

価格はお客様が決めるものではありませんので、1点単価については、小売業側の価格戦略が正しいのかを検証する必要があります。その際に必要な考え方が「価格の弾力性」です。

通常、価格を下げるとお客様はお買い得に感じて、販売数が増える関係にあります。その関係を弾力性といい、価格に応じて販売数が変化する場合は「弾力性がある」と言えます。この「価格弾力性」を判断するためには、価格と販売数の相関関係を分析していきます。

弾力性が無いのに価格を下げると、当然ですが、小売業側は利益を減らすだけとなります。この場合、あまり良い価格設定とは言えません(競合他社との関係などから価格を下げる、というケースは有り得ますが)。

コンビニで販売しているビニール傘が何故高いのか、考えたことはありますか。実は、この「価格の弾力性」が無いからです。ビニール傘は、急に雨が降ったとき購入される商品です。価格が多少高くてもお客様は購入される為、価格を低くしても高めに設定しても、販売数に影響しません。

3. POSデータを用いた時間帯分析、客層分析 〜「客数」分析は奥深い!1〜

「客数」は、分析する人の立場や目的によって、分析方法や施策は様々です。まずは従来のPOSデータを使った、時間帯分析、客層分析をご紹介します。

時間帯客数分析

客数を時間帯別に分けて、分析していく手法です。具体的には、下記のような比較を行っていきます。多くの比較例がありますが、参考までに一部をご紹介します。

・昨年との比較
・店舗の分析の場合、他の店舗やエリア全体との比較
・商品の分析の場合、店舗全体の客数と対象商品の購入客数との比較、他商品との比較

この分析で弱い時間帯、強い時間帯を把握したら、課題となる時間帯によく売れる商材を拡充したり、タイムセールのような販促を企画したりします。

客層分析

客数を性別・年代で分解するのが客層分析です。想定しているターゲット層が利用されているかを見ていきます。コンビニやスーパーのPOSレジには性・年代を把握するための「客層キー」といった機能があるので、店舗スタッフの主観にはなりますが、大まかな客層を把握することが出来ます。

ポイントカード、会員アプリ等を導入して、顧客IDと紐づいて販売データを取得していれば、詳細な顧客情報を把握できますので、より詳細な分析が可能です。例えば顧客の住所情報を元に店舗ごとの商圏を把握し、重点的にチラシを配る地域を選定する等の施策が考えられます。

4. 会員アプリ等を用いた、顧客IDデータの分析 〜「客数」分析は奥深い!2〜

従来のPOSデータを使った分析では、時間帯分析、客層分析が中心でしたが、会員アプリ等によって顧客IDと販売データが紐付くことで、より深い客数分析が可能となってきました。顧客IDと紐づくと、「客数」がより細かく因数分解できるようになります。

客数(レジ通過数/注文数)
=ユニーク顧客数(顧客ID数)×購入頻度
例えば私が3回店舗で購入した場合、それぞれ下記のようなカウントになります。

・客数(レジ通過数)=3
・ユニーク顧客数(顧客ID数)=1
・購入頻度=3

それぞれの数について、どう対策を取るべきかを見ていきます。

ユニーク顧客数(顧客ID数)

ユニーク顧客数を上げるためには、下記の3つの対策があります。

・新規顧客の獲得
・顧客の離脱の防止
・休眠顧客の掘り起こし

新規顧客の獲得は広告でこれまでリーチしていないお客様への認知を高めたり、キャンペーンとセットで店頭の販促物を展開する等の施策があります。実施した施策の検証のためにトライ・リピート分析を行い、新規顧客が獲得できたか、獲得した顧客がそのまま定着しているかを分析していきます。

顧客の離脱の防止、休眠顧客の掘り起こしについては、一度離脱した顧客に再度利用してもらうのは、かなりハードルが高いため、離脱に至る前の対策が重要となります。

そのためには顧客の状況を把握し、離脱に至る前に手を打つ必要があり、RFM分析が有効になります。3つの指標で顧客の状況を把握する分析手法となります。これは下記にあるような3つの指標で、顧客の状況を把握する分析手法です。

・R(Recency):直近の購入日
・F(Frequency):購入頻度
・M(Monetary):購入総額

例えば、元々購入頻度が高いのに、直近の購入が無い場合は優良顧客の離脱のリスクとして捉えることができるので、個別に割引クーポンを送って離脱を予防することができます。

購入頻度

購入頻度に対しての分析手法としては、既に触れたトライ・リピート分析やRFM分析等がありますが、実際に頻度を上げる施策については最も悩むことと思います。

シンプルに考えれば「自社を利用したいと思ってもらえる機会を、どう増やすか」を考えれば良いはずです。そのために考えられる施策としては、下記のようなものがあるでしょう。

・ポイント制度等で囲い込む
・自社展開している複数のサービス、商品、チャネルを利用して頂く
・顧客と自社との接点を増やし、ロイヤリティ、エンゲージメントを高める

「ポイント制度での囲い込み」は多くの企業で実施していますが、これだけではポイント付与率を他社と競うことになってしまい、あまりお勧め出来ません。自社利用の機会を増やして頂くための、“本質的な”施策を実行することが重要です。

自社の展開しているサービス、商品、チャネルを知って頂くことで、利用目的を増やすことが出来ます。その結果、当然、利用したいと思って頂ける頻度も増加します。これにより「買上点数」を上げるための施策として、有効となってきます。

また複数のチャネルを利用いただくために、O2O施策やOMO、オムニチャネル化を推進することも重要です。実際に複数のチャネルを利用されている顧客は、一つのチャネルのみの利用者に比べて、LTVは高まる傾向にあります。

次に、利用の前および利用した後も含めて、顧客との接点を増やすことも有効です。接点が増えることにより顧客と自社との距離感が近づき、ニーズが生じた時に自社を想起して貰いやすくなります。各接点から購買に繋がりやすくすると、生じたニーズをそのまま獲得することができます。

接点を増やすために多くの企業で展開しているスマホアプリですが、接点が増えるコンテンツ、サービスが提供出来ているでしょうか。また、購買に繋がりやすいUI/UXになっているでしょうか。本記事のデータ分析手法を参考に、“見直し”の機会を持っていただければ幸いです。

⾦⼦ 傑 執筆者

執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント

2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等

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