Amazonの「Amazon Go」以来、日本でも聞く機会が増えた「無人店舗」。「うまくいっていないのでは?」との声も聞きますが、実際はどうなっているのでしょうか。国内外の最新動向を踏まえ、その違いについて見ていきます。
小売り×DXの気になるニュースを、リテール業界の現場経験が豊富なプリズマティクスのコンサルタントがチョイスしてお届けする「今月の注目ニュース」。今回はシニアコンサルタントの金子が、「無人店舗」の最新動向事例をチョイスしました。リテール業界の豊富な現場経験から、コメントを交えて業界の潮流をご紹介します。
目次
1.新技術の導入や異業種コラボを次々と展開「Amazon Go」 2.Amazon Goの対抗馬、利用者ニーズに合わせた地域密着型店舗「Valet Market」 3.無人“実”店舗に顔認証決済を導入し、取り組みを加速「トライアルカンパニー」 4.まとめ1.新技術の導入や異業種コラボを次々と展開「Amazon Go」
●Amazonは、2016年12月に無人店舗「Amazon Go」を発表。
●レジレス決済(Just Walk Out)やスマートショッピングカート(Amazon Dash Cart)等、新技術を次々に投入。
●スターバックスとのコラボ等、他業種への展開も開始。
「無人店舗」のパイオニアともいえる「Amazon Go」ですが、2018年のデビューから大きな進化を遂げています。米国と欧州を合わせると90店舗以上に展開され、路面店での実用が拡大。狭小店舗だけでなく約2000平米の広いスーパーマーケットでも、AIカメラを使った「Just Walk Out」が導入されています。
アプリ不要(クレジットカードや手のひら認証)での入店、セルフレジの併設等、消費者にサービスの選択肢も拡大され、顧客体験は年々向上しています。またAmazonは「Just Walk Out」の外販をしたり、異業種とのコラボ等、自店での“実用の次”の試みが開始しています。未だに“実証実験”の域を脱しない日本との差は、大きなものとなりつつあります。
2.Amazon Goの対抗馬、利用者ニーズに合わせた地域密着型店舗「Valet Market」
●Valet Marketは、地域内での利便性を高めた購買体験を提供。
●ハブ店舗とサテライト店舗を同一地域内に設置。さらに自宅への高速配達も実施。
●店舗のネットワーク化と労働力の適切な配置でコスト削減を実現。
「AmazonGoの対抗馬」としてよく紹介されるサービスのうち、ここではAccel Robotics社の「Valet Market」の顧客体験を紹介します。
Valet Marketは、小さな倉庫を中心に複数の店舗を地域に展開しています。利用者は欠品があればアプリからオーダーすると自転車で5分ほどの倉庫から店舗まで商品が届き、さらには常駐スタッフが自宅まで商品を届けてくれるサービスも実施しています。普段から顔見知りのスタッフが届けてくれるので、女性の1人暮らしであっても安心して注文が可能です。また利用者の購買データを基に、店舗及び倉庫の商品を随時入れ替え、利用者のニーズにあった品揃えを実現しています。
日本の多くの無人店舗が目的としている省人化、無人化ではなく、新たな顧客体験を創ることを目的とし、それにあったビジネスモデルを展開しています。
3.無人“実”店舗に顔認証決済を導入し、取り組みを加速「トライアルカンパニー」
●トライアルカンパニーは、日本初となる24時間顔認証決済を実店舗に導入。
●店頭でのユーザ登録後は、酒類を購入する際の年齢確認が不要に。
●スキャン漏れ防止機能を搭載したスマートショッピングカートにも注力。
日本での無人店舗の取り組みは、コンビニ各社を中心にオフィス内やホテル内等、利用者の限られたエリアへの展開が殆どです。そんな中、いち早く路面店で一般客向けの取り組みを推進しているのが、九州に本拠をおくトライアルホールディングスです。
ディスカウントストアを運営するトライアルカンパニーは、スマートショッピングカートを自社開発し、顧客の利便性を追求してきました。しかし酒類販売に関しては、年齢確認といった課題がありました。一般客を対象とした「24時間顔認証決済」を開始することで、これまで課題となっていた酒類の年齢確認を解決。セルフレジで24時間酒類の販売が可能となりました。トライアルカンパニーの進める「リアル店舗のスマートストア化」は、今後も注目です。
4.まとめ
今回は「無人店舗」の事例として、海外から2つ、国内から1つ紹介しました。ところが実は、この3つとも「無人化」はしていません。どれも無人化を目的としているのではなく、顧客体験を追求する過程でレジの待ち時間をなくし、結果として省人化されています。
欧米ではこれらの店舗のことを「無人店舗」と呼ぶのではなく「Autonomous Store(オートノマス・ストア)」といっています。直訳すると「自律型店舗」で、物理的なレジがなく決済が自動化された店舗のことを意味します。
日本の「無人店舗」は“無人化”を目指しているため、盗難やロスのリスクを考慮し、利用者の絞られるオフィス内やホテル内といった、閉鎖環境への展開が中心となっています。一般客を対象とした路面店での取り組みは、あくまでも実証実験の枠に限られ、本格的な展開はまだまだ先となっているのが現状です。
コンサルタントとしては今後も、無人店舗も含めたIT利用による顧客体験の向上、それにまつわる企業支援をますます進めていきたいと感じています。
執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等
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