プリズマジャーナルTOP奥谷孝司×濱野幸介【wow!シリーズ】対談後編「N1の『なんかこれええやん』=Micro-Experienceが口コミの起点」

奥谷孝司×濱野幸介【wow!シリーズ】対談後編「N1の『なんかこれええやん』=Micro-Experienceが口コミの起点」

# ファン # wow!シリーズ # N1マーケティング # 顧客体験

ブランドや商品の「ファンづくり」において先進的な取り組みをされてきたトップランナーをゲストにお迎えし、プリズマティクスCEO濱野がお話を伺う対談シリーズ「What is your “wow!” experiences? ~あなたの“ご贔屓”教えてください!」(wow!シリーズ)がスタート。記念すべき第1回目は、オイシックス・ラ・大地株式会社COCO株式会社顧客時間 共同CEO取締役の奥谷氏をゲストにお迎えします。

奥谷氏は「MUJI passport」のプロデュースを統括し、業界に先駆けてオムニチャネル戦略の立案と遂行を手掛けて来られました。前編に引き続きこの後編では、業界のトップランナーであるご自身が、まさに今、何に「wow!」を感じているのか、というお話を交えながら、今の小売りとファンづくりについて語って頂きます。

奥谷 孝司

株式会社良品計画にて店舗、商品開発を経験。「足なり直角靴下」を開発後、2010年WEB事業部長に就任。Online売上の拡大のみならず「MUJI passport」のプロデュースを統括し、業界に先駆けてオムニチャネル戦略の立案と遂行。2016年よりオイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員 COCO(Chief Omni-Channel Officer)。2018年9月には株式会社大広との共同出資会社である株式会社顧客時間を設立、共同CEO取締役となる。プリズマティクス株式会社ではエンゲージメントコマースアドバイザーを務める。

 

濱野 幸介

アクセンチュア株式会社(当時アンダーセン・コンサルティング)に8年間在籍後、株式会社リヴァンプにてCTOなどを経験。その後、株式会社良品計画ではアドバイザーとして「MUJI passport」を中心にマーケティング全般の企画・運営を技術面より支援。2016年にプリズマティクス株式会社を設立しCEOに就任。顧客と各企業・ブランドとの絆を深める良質な体験の場を「エンゲージメントコマース」と捉え、その構築に向けたプラットフォームとコンサルティングサービスを提供している。

1.奥谷さんの今の「wow!」は、サウナ、ワイン、そして……?

── 本対談シリーズ「What is your “wow!” experiences? ~あなたの“ご贔屓”教えてください!」では、ファンづくりのトップランナーご自身が今感じておられる「wow!」について伺っていきたいと思います。今、奥谷さんがハマっていることや、好きなモノを教えていただけませんか。

奥谷:そうだなぁ、最近は、サウナかなぁ。50過ぎてからサウナーになったなぁ。

濱野:えっ、そうなんですか? ちょっと意外。

奥谷:もともとはサウナ嫌いだったんですよ、暑くて耐えられなかった。でもなんていうか、まぁ、おっさんの話ですけどね、代謝が落ちてるなって。運動もちょっとはするけど、ムキムキになりたいわけじゃないから、気休めの運動だし。

でも、汗をかかないことがいかに良くないか気付いた時に、「サウナ、暑いけど、汗、出るよね!」って思って。僕も濱野くんと同じで、止まると死ぬマグロ系一族なんやけど、でもなんか、止まる体験、何もしない時間、というのが結構大事かなって思ったりして。

最近は、風光明媚な場所のサウナとか、キャンパーの人が自分のサウナを持っていたり、遠方までサウナだけの為に行って来た!みたいな話とか聞くわけですよ。でも僕、そこまでやりたいわけではない。サウナ、10分で充分なの(笑)。何回も、とか耐えられない。だから地元のジムのサウナに行っていて、周りはじいちゃんばっかりなんだけど、僕はそこにいても結構幸せは得られてますね。

でも、うーん、結局これも「どうなの?」戦略というか……「結局、サウナってどうなの?」って話が出来るから、というのはあるかなぁ。

── 何かご贔屓にされている“モノ”はありますか。

奥谷:うーん、モノにはあんまり執着がないからなぁ。

濱野ワイン、好きですよね?

奥谷:そうだね、みんなと飲むのが好きだから……それも結局、体験商品なんだよ、俺にとって。ワインに関する蘊蓄には興味ないし、覚えたり勉強する気も無いのよね。でも、やっぱり、“食”かな。こないだ友人に教えてもらった“ういろう”が……

濱野:え、ういろう?

奥谷「雀おどり」ていう、ういろうが美味いねん。せやから俺は今、サウナとワインと、ういろう(笑)。

濱野:めちゃくちゃ偏ってる(笑)。

2.顧客体験の起点となる「Micro-Experience」の抽出が“鍵”となる

奥谷:運動しないジム会員って、僕、ダメなやつだと思ってたんです。でもよく考えたらジムにサウナあるし、何回行っても同じ金額だからさ、ある時行ってみたの。そしたらさすがに、サウナ10分入って帰ってくるのもアホやなって思うからさ、ちょっと休んでまた入って。3回もやったら充分で、1時間位で帰ってきちゃうんだけど。

でも、これもひとつの用途開発っていうか。もし僕がジムのマーケターだったら、もっと「サウナーウェルカム!」って言うなって思って。なんとなく人って「これはこういうもの」って決めがちっていうかね。

濱野:僕も家族で、少し郊外の大規模スーパー銭湯に行くことがあります。もちろん温泉、サウナ、岩盤浴の利用とかもありますけど、結構いい飲食店が入っていたりして、飲食を楽しみに行くっていうのも全然アリなんですよね。長時間いても大丈夫なように漫画本が何万冊も置いてあって、それを楽しみに行くことも出来る。

今、好みが多様化しちゃっていて、移り変わりも早い。「YouTube見てる」って言っても、個人で端末を持っちゃってるから、皆見てるものは違いますよね。

奥谷:今の時代が「体験の時代だ」というのは、むしろ「小さな幸せ」を見つけることなんじゃないかな。「こんな旅してきました!」ってSNSに大きな体験をドーン!てのっけるのも良いと思うけど、それだけが幸せというわけでなくて、みんなの「Micro-Experience」「小さな体験」を拾ってくっていうのが、結構大事なのかなって、最近はめちゃめちゃ思ってますね。自分の体験から言うとね。

濱野:僕も「Micro-Experience」って考え方、あると思いますね。最近、昇降デスクを買ったんですよ。まぁ機能価値としては、机が上がったり下がったりするだけだけど、アレで劇的に生活が改善したというよう話を結構見たりして、良いのかなって思って。調べ出すじゃないですか、YouTube見たりとかして。それで買ってみたんですけど、やっぱり、良かった。それで折に触れて、チームメンバーと話すことがあったりすると、オススメしてますね。本当に良かったから。

奥谷口コミとかオススメっていうのは、モノとコト(体験)が融合した「Micro-Experience」、つまりN1(一人の顧客)としての「なんかこれええやん」が起点になる。だから、当然だけど、オススメして欲しかったら、体験を考えるってことだよね。体験価値は、お客様が持ってるとも言える。上手く行っているところは皆、体験を考えているなと思っています。

3.時代性に合わせた体験のチューニングで、顧客のペインを解決する

── サービスにしろモノにしろ、時代の流れに合っているどうかというところはあるんじゃないかなと思ってるんですが、その点はどうでしょう。

濱野:それはありますよね。タイミングが合っているかどうかは、上手くいく条件のひとつだよね。

奥谷:あるある。「Yakult(ヤクルト)1000」が話題になったのも、ちょうど人々のペインがいろんな意味で強い時代だからこそ、というところがある。

濱野:「ヤクルト1000」は今回ヒットする前にも「花粉症に効く」とか言われたりして、何度か“助走期間”があった気がしますしね。

奥谷:今、閉塞感がある時代の中で「ヤクルトの1500か10000かなんか知らんけど、良いらしいで」って周りが言う。走れ、とか、筋トレやれ、とかいうのとは違うウェルネスを感じる。その結果、手に取りやすいウェルビーイングとして、ハマったんだと思うんよね。

そういう時、「正直にいいものをつくってきた」というブランドの信用、信頼があると、やっぱりマーケットに入りやすい。その信頼感のもとに、フェアなインタラクティビティというのかな、インフルエンサーじゃなくて、一般のお客さんが自然と口コミしてしまう、「いいわよね」って言ってしまう……そういうのがいいよね。その後も信頼があるから繋がり続けよう、となってくるわけで。

奥谷:この数年はコロナで行動制限があって、お客さんはますます体験を志向するように変化している。3年前にできてたコトができないってことは、“最近の良い思い出”をもう一回やりたいに決まってる。これは簡単な話で、だからこれからしばらく、お客さんは体験にお金を使うわけだよね。じゃあ「モノを売ってる企業は体験を売れないのか」っていったら、そうじゃない。

さっきの昇降式デスクもそうだけど、「改めて家を見直したい」「自分専用のオフィス空間をつくりたい」という人が出てくる。そうしたら、モノは買うわけで。モノの本質はそんなに変わらなくても良いけど、時代に合った体験のチューニングをしなきゃいけない。機能的商品価値を高めるとなると必然的に時間がかかるから、今の時代に即リーンスタートしたいんなら、ペインの方に行くべきやろうね。

4.企業は顧客の持っている「いいじゃん」を見つめる努力を

濱野:もともと小売は「変化対応業」と言われますからね。20~30代と育ってきたブランドなら、またその時代の20~30代と共に再定義しなきゃいけない。

奥谷:せっかく一定のファンがいても、創業当時のブランドイメージに固執してしまって時代の変化に合わせていけなかったり、安さを売りにしてたのに競合他社の出現で相対的に高くなってしまったり、ということってありますよね。そこに「代替品はなかなか提示できないけど、安くすれば、昔のままでもお客様は喜ぶだろう」っていうのは、発想としては、ちょっと舐めてるよね。

まぁ特にメーカーなんかは、機能から入って、商品ができちゃってからお客さん見るから、どうしても機能的価値を無理矢理押し付けたくなってしまう。企業がモノから考えた方が楽だっていうのは分かるんだけどね。でも、モノで差別化するのは、今、本当に大変だから。そうするとお客さんとしては「まぁ、言われたらそうかもねー。知らんけど」って話になる。

僕から言わせると「ヤクルト1000」も、そう。お客さんは「飲み始めてからよく眠れるようになった」とか「毎日飲んでると体の調子がいい気がする」とか、効果や体験を話してるんだよね。そんなこと企業は言えないけど、お客さんが言うのは自由なんで。「シロタ教授がつくったシロタ株の乳酸菌が……」なんて話は、良い意味で、誰もしない。体験設計がうまくいっているからモノが売れていて、その結果「機能が良いね」って見直されてるのが「ヤクルト1000」なんですよね。

現代は「僕たちはこういう商品をつくります」っていうよりも、「僕たちはこういう体験を提供します、だからこういう商品を売ってるんです、だから買ってください」と提示する。そしてそれを理解してもらった上で、確かに良い機能だし、体験もいい、だから繋がり続けたいね、という階層に上がってもらう。そういう時代。

この「いいじゃん」という体験価値の答えは、お客様が持ってると思うんです。企業内部ではそこを見ているつもりで、全然見えてないということもよくある。本当はそこをちゃんと企業が直視しないといけないんよね。まぁやっぱ今の時代、体験にしか答えはない気がする、って思いますね。

(取材・構成・文=プリズマ編集部)

プリズマ編集部

「the engagement commerce platform for wow! experiences」をコンセプトに、小売業における顧客エンゲージメント向上の支援、戦略的OMOを実現するプラットフォーム提供を行うプリズマティクス株式会社が運営する、オウンドメディア『プリズマジャーナル』編集部。

『プリズマジャーナル』では、プリズマティクスで活躍するコンサルタントが執筆するコラム「徒然ジャーナル」、業界の先端を走り続けるプリズマティクスアドバイザーからの寄稿文など、小売業の皆様に向けて伝えたいこと、耳寄りな情報などをお送りします。

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