「生産性の向上」は小売・飲食企業における普遍的テーマであると同時に、急速な環境変化から喫緊の課題にもなっています。この局面をDX推進によりブレイクスルーしようと、様々な取り組みを行っている企業が増えています。
リテール業界の現場経験が豊富なプリズマティクスのコンサルタントが、小売り×DXの気になるニュースをチョイスしてお届けする「今月の注目ニュース」。今回はビジネス・業務コンサルタントの渡邊が、各社の取り組み事例やその背景にある個別の課題について、コメントを交えてご紹介します。
目次
1.コア業務である発注予測をAIが支援、セブン&アイHD 2.店長とスーパーバイザーの業務をAIアシスタントが代替・ファミリーマート 3.モバイルオーダーの継続的な改善に注力・米国外食チェーン 4.まとめ1.コア業務である発注予測をAIが支援、セブン&アイHD
●セブン&アイ・ホールディングスは、AIによる発注支援システムの導入に注力
●AIの導入により発注業務の時間が3〜4割短縮、欠品率は27%減少
●イトーヨーカドーは2020年に導入、セブンイレブンも2023年春には全店舗で導入予定
コンビニエンスストアにおける「商品発注」は、コンビニ経営の要の業務といっても過言ではありません。様々な情報を参照して事前に仮説を構築しますが、その仮説の精度によって売上が向上したり、逆にチャンスロスとなってしまう「核」とも言える業務です。
このような重要な業務にDX推進による効率化の波が及んできた背景として、店舗経営の担い手であるオーナーの確保が課題となっていることが挙げられます。
顧客サービスが多角化しているコンビニ経営では、現場の疲弊を回避する取り組みは極めて重要です。AIによる商品発注のサポートをはじめ、シフトの自動作成、検品の簡略化等、店舗業務をテクノロジーで効率化するなど数々の効率化の取り組みから、“待ったなし”の状況が伺えます。
2.店長とスーパーバイザーの業務をAIアシスタントが代替・ファミリーマート
●ファミリーマートは、人型AIアシスタントを5000店舗に導入予定。
●店長業務、スーパーバイザー業務をサポート、一部代替する。
●業務省力化により、店長やSVが店舗運営のより重要な業務に時間を割けるようになる。
チェーンストアビジネスにおけるスーパーバイザー(以下SV)は、フランチャイズ本部の加盟店とのパイプ役です。業務内容は各店の運営に関するコンサルテーションや、本部施策に基づく加盟店のコントロール等多岐に渡ります。
データや情報の提供をAIアシスタントが担い、生産性を改善しようとする取り組みです。ヴァーチャルのキャラクターが、アシスタントとしてアドバイスをしてくれる。何だか近未来的な世界ですね。しかし、何故SVの生産性向上に取り組む必要があるのでしょうか?
より重要な業務に時間を割くためという理由の他に、労働時間の上限規制を遵守するため業務負荷を下げる、という側面もありそうです。コンプライアンス違反は、法的責任の追及だけではなく、企業イメージの低下にも繋がる、看過できないリスクです。「業務品質を保ちながらリスクを回避したい」というような課題に、DXで対応することが有効なケースも多そうです。
3.モバイルオーダーの継続的な改善に注力・米国外食チェーン
●米国外食チェーンは、店舗の省人化を目指してロボットやAIの導入を加速
●Chick-fil-Aは、モバイルオーダー専用のドライブスルーレーンを新設
●マクドナルドは、モバイルオーダーの受け渡しをベルトコンベアで開始
モバイルオーダーを利用する顧客を対象に、専用のドライブスルーレーンを新設した米国の店舗が紹介されています。多くのファストフードチェーンで同様の取り組みが強化されていることから、スタンダードになっていくのでしょう。
一方で日本では、モバイルオーダー自体がまだ十分に浸透していない状況です。モバイルオーダーで注文し店舗に行ったものの、どこで商品を受け取ったらいいか分からなかった、という経験はないでしょうか。モバイルオーダーシステムは導入したものの、オペレーションと店舗ハードが対応できていないケースですね。
「人員確保が難しい」という課題から自動化に取り組むのは、日米ともに共通です。しかし、「デジタル顧客を取り込まないと市場で生き残れない」かどうか、その危機感には大きな差がありそうです。この差が、アプリやシステムの導入に留まらず、オペレーションや店舗ハードまでを抜本的に見直すか否か、その行動の差にも表れているように思えます。
4.まとめ
DXにより生産性を改善しようとする事例を紹介しました。それぞれの課題を考えると、一つ目はビジネスモデルの維持、二つ目はリスクヘッジ、三つ目は刻一刻と変化する顧客への対応として捉えることが出来そうです。取り組みそのものは千差万別ですが、課題の共通項としては「スピード感をもって取り組む必要がある」「経営課題とも言える重要度の高さ」ではないでしょうか。
自社にとって喫緊かつ重要度が高い課題があり、その解決手段としてDXに取り組む。抜本的な見直しも辞さない覚悟で進める。これも、あるべきDXへの姿勢のひとつなのかも知れません。競合が取り組んでいるので、とりあえずDX推進部署を創設してみたが、活動内容は不透明……というような事態は避けたいものです。
(構成・編集=プリズマ編集部)
執筆者プロフィール
渡邊⼤吾 ビジネス・業務コンサルタント
2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。
≪⽀援実績≫
・OMO/EC︓グラニフ、⼤⼿⽣活⽤品メーカーのD2C施策検討等
・CRM︓⼤⼿アパレルの会員制度設計等
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