プリズマジャーナルTOP外食産業の取り組みが示唆する、“小売DX”の未来像 ~接客、パーソナライズコミュニケーション編

外食産業の取り組みが示唆する、“小売DX”の未来像 ~接客、パーソナライズコミュニケーション編

# 外食産業 # DX # モバイルアプリ # パーソナライズ # 接客

プリズマティクス株式会社のアドバイザー、神谷勇樹氏が『プリズマジャーナル』に初登場です。すかいらーくにてデータ分析チームを立上げ、マーケティングのROI改善や事業機会の特定、強化を行い、モバイルアプリの責任者としてオンラインマーケティング領域強化を推進した神谷氏。現在は「顧客接点のラストワンマイルにおける総合的な支援」を掲げる、エンバーポイント株式会社のCEOを務めておられます。

インタビュー第一弾となる本記事のキーワードとなるのは、「接客」「パーソナライズコミュニケーション」。外食産業や小売業界、企業の大小に関わらず、お客様対応、顧客対応が必要となる事業主全員に共通する課題について、外食産業DXのトレンドを踏まえて語って頂きました。

(取材・構成・文=プリズマ編集部)

1.「外食DXのゴールはどこなのか?」パーソナライズ編

── 外食産業の「DX」は、何を目的に行うことが多いのでしょうか。「DX」という言葉は、デジタル化、オンライン化というような狭義の文脈で用いられることが多いかと思います。しかし外食産業に限っては、お店で食べに行かないといけない、つまり“リアル”が非常に重要なファクターのように思えるんです。

神谷:なるほど、つまり「外食DXのゴールはどこなのか?」という質問ですね。

それにお答えする前に、まずは近年のアメリカ外食産業のDXトレンドについてお話ししたいと思います。全米外食チェーンのランキングデータを見ると、1位や2位にランクインするのはマクドナルド、スターバックスなど日本でもよく知られている名前です。でも例えば2019年、3位にランクインしているのは「Chick-fil-A(チックフィレイ)」という企業。日本では殆ど知られていませんが、今一番成長していると言われているチェーンです。

このお店、一般的な飲食チェーンとしてはものすごく変わっています。まず何を売っているのかというと、チキンサンドの店で、ほぼそれだけを売っているんですね。そしてオーナーが敬虔なクリスチャンということから、創業時から日曜日は定休日となっています。空港だろうと、ショッピングセンターだろうと、スタジアムだろうと、休み。そのくらい徹底して週6営業をしているのに、1位、2位と遜色ない売上なんです。

神谷:そして、デジタル、ITに強い。本社採用は半分がIT部門、それもいわゆる情シスではなく、開発者を募集しています。例えば、モバイルオーダーアプリは2013年12月ローンチ。日本よりも7~8年早い動きですよね。2017年には、モバイルオーダーの消費者満足度が全米No.1になっているんです。

人によって違うホーム画面を出すという、今のウェブサービス専業企業がやっているようなパーソナライズも、普通にやっています。しかもこれが、しっかり売上に貢献している。Chick-fil-Aの動きを見た上位競合他社は、同じようなことをやりたい、でも自社では出来ないということで、データを活用したパーソナライズにめちゃくちゃ投資をしています

例えばマクドナルド。それまで20年間大きな買収をしていませんでしたが、2019年に300億円以上をかけてパーソナライズ技術を持った会社を買収しています。スターバックスも同様の技術を持った企業に出資をしたりしています。

2.向かっているのは、「接客」の在るべき姿

神谷:そもそも「パーソナライズ」とは、何か。それってつまり「接客」のことなんですね。外食でも、小売でも、接客ってすごく大事なことじゃないですか。もちろん「売れるからパーソナライズを頑張る」という視点もありますけど、顧客ビジネスの在るべき論として「接客を大事にする」ということがあるわけです。だから今、そこに向かってみんな進んでいるのだと思います。

「いらっしゃいませ」「何にいたしましょう」と声をかけて、お客様の顔を見て、「この人はこれが欲しいのかな」「コレとコレで迷っているなら、ここが気になっているのかな」「こういう問いかけをしてみて、こういう答えが返ってきたら、こういうオススメをしてみよう」というように考えますよね。

お客さんとコミュニケーションを取るということは、リアルな店舗、人間の接客では当たり前にやっていますし、オススメする商品も人によって変えますよね。単品商売でない限り、誰に対しても同じ商品を勧めるということをしても、うまくいかない。でも今、多くの企業がやっているネット上での“コミュニケーション”は、それなんですよ。

コミュニケーションというのは、必ずパーソナライズという方向にいく。何故なら人間は一人一人違うから、置かれている状況が違うからです。だとすると、コミュニケーションは“パーソナライズしなければいけない”んです。その人がどういう人で、何を考えていて、どういうものが好みで、今が欲しいと思っているタイミングなのか、そういうのを見極めた上でコミュニケーションを取っていかなければいけない。

その時に必要になるのが、「データ」です。

3.「行動情報」のデータ取得が、パーソナライズの鍵に

神谷:では「データ」には、何があるのか。一般に言われるのは属性情報、購買情報、行動情報。この3つです。

購買情報はやはり、1番大事なデータのひとつです。商品の発売前アンケートで「あなたはこの商品をいくらでなら買いたいですか」と聞いて「500円」と回答をした人が、実際の購買行動としては200円にならないと買わなかったりします。商品を買おうと思って財布を開く瞬間のことを“真実の瞬間”と言ったりするんですが、その瞬間の情報こそが「購買情報」なわけです。

行動情報というのは多岐に渡っていて購買情報もこの中に含まれますが、「その人にとってのタイミング」を見る為に、行動情報を取っておくことが凄く大事です。例えば、家電量販店の場合、耐久消費財を売るにはタイミングがものすごく重要なんですよ。

お店の洗濯機売り場をやたらとウロウロしている人がいたり、Webサイトで洗濯機ばかり見ている人がいたとしたら、「洗濯機が壊れたのかな」「今の洗濯機が古いのかな」「そろそろ買い換えたいんだな」と想像できますよね。洗濯機を買ったばっかりの人に洗濯機の広告出しまくっても、意味がないわけです。

── 自分は、洗濯機を買ったばかりなのにWeb広告が全部洗濯機になってしまって、「もう洗濯機は探してない!」となりがちです……。

神谷:それは、購買情報が繋がってないからですよね(笑)。行動情報を取得したり、そのデータを元に行動予測してコミュニケーションすることって、タイミングが良ければすごくハマるんです。でも、ちょっと扱いに気をつけないと「気持ち悪い」ってなっちゃうことも、よくあります。ただ、それがまさに「パーソナライズ」ということではあるんです。

4.今、アプリをやらなければならない理由とは

── 神谷さんと言えば、すかいらーくのモバイルアプリを推進したことで有名です。また近年のお仕事を拝見していても、スマホアプリを重要視されているように視えます。メールや様々なSNSなど、顧客と直接繋がるツールが様々にある中で、何故、今、スマホアプリなのでしょうか。

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神谷:消費者、エンドユーザーとコミュニケーション取る上で大事なことは「データを取る」「コミュニケーションの出口」の2つです。この2つを一度におさえられるということに加えて、パーソナルなデバイスであること。これが、僕がアプリをやる1番大きな理由です。

コミュニケーションの出口としてはメール、SNS、LINE、アウトバンドコールなど色々あります。でもデータがないと何も出来ない。全体像が見えてこないんです。データをどうやって集めるか、そこが非常に大切なんですね。

スマホならWEBサイトでもいいじゃないか、と思われるかもしれません。今は、WEBサイトにログインしてくれればデータが取れます。ただ、ログインセッションは切れちゃいますし、Cookieの問題もあります。であれば、アプリから継続したデータ取得にした方がいい。

またオフラインの行動情報は、WEBサイトじゃデータ取得が出来ないんです。例えば家電量販店の洗濯機売り場をウロウロしている人の「オフライン行動データ」というのは、Wi-FiなりBeaconなりを使えば、位置情報取得ができたりします。もちろん、パーミッションが取れるかとか色々な問題はありますが、技術的にはやることはできるわけです。プライバシーの扱いなどは、法律的にはOKでも消費者感情からするとNGということもあるので、企業はそこにも配慮した上でやる必要はあります。

「パーソナライズしたコミュニケーション」を目指していこうとすると、他人と共用で使うことがほぼ無いパーソナルデバイスでデータを取得することが最も効果があります。パソコンのような家族共用の可能性のあるデバイスではないので、行動データにノイズが少ない。これをやろうと思ったらもう、アプリしか選択肢がない。アプリじゃないと出来ない、ということはとても多いんです。

神谷氏へのインタビュー前編では、外食産業DXの近年のトレンドを踏まえ、「DX」が「お客様対応」「接客」の質向上に欠かせない取り組みであることを語って頂きました。後編は「外食産業の取り組みが示唆する、“小売DX”の未来像 ~企画立案・オペレーション改革編~」として、業務側に視線を向けます。

テック部門と事業部門のコミュニケーションや、そこに横たわるギャップ、言葉の壁などをどう乗り越えていけば良いのでしょうか。取り組みのヒントについて、現場感あふれる思考のディテールと共に、神谷氏から“やり方”を伝授していただきました。近日公開予定となりますので、お楽しみに。

(取材・構成・文=プリズマ編集部)高い柔軟なAPIで戦略的OMOを実現します。無印良品、スターバックス、サンリオ、アンファーなど成長を見据えた企業に選ばれ続けています。

神谷 勇樹

神谷 勇樹
プリズマティクス Adviser(アドバイザー)

東京大学工学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了。
ボストン・コンサルティング・グループ、グリー、すかいらーく、PKSHA Technologyを経てリノシスを起業。グリーではKPIモニタリングの仕組みの構築やビッグデータ分析チームの立上げなどにより業績拡大に貢献。
すかいらーくではデータ分析チームを立上げ、マーケティングのROI改善や事業機会の特定/強化を中心に担当。モバイルアプリの責任者としてオンラインマーケティング領域強化も推進。
2020年11月、「顧客接点のラストワンマイルにおける総合的な支援」を掲げるエンバーポイント株式会社のCEOに就任。

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