ポイントをお得に貯めて使う「ポイ活」という言葉が生まれる程、今の我々にとって“ポイント”は身近なものになっています。
私は消費者としての利用は勿論のこと、ビジネスにおいても複数の立場でポイントに関わってきました。1つ目は小売企業でポイントプログラムを運用する立場、もう1つはIT企業でポイントプログラムを設計し、システム提案をする立場です。
この記事では、立場の違いや時代の変化から、ポイントプログラムの潮流を考えてみたいと思います。
目次
1.ポイントプログラムとその変化 2.従来のポイントプログラムに隠された“前提” 3.ポイントプログラムの構成は、時代によって変化する 4.ポイントプログラム再構築時の、よくある課題とは 5.ポイントプログラムの点検1.ポイントプログラムとその変化
ポイントプログラムは、消費者に企業への愛着や信頼を高めてもらうロイヤリティプログラムの構成要素の一つです。広義のロイヤリティプログラムには、航空会社のマイレージサービスのようなものも含みますが、本記事では小売りや飲食の企業で展開されるポイントプログラムを取り扱います。
ポイントプログラムは当初、シンプルに金銭的なインセンティブを設けて顧客を囲い込もうとする側面が強かったように思います。しかし、近年においては非金銭のインセンティブも交えながら、顧客とのコミュニケーションを促進する内容へと変化してきました。顧客との関係構築を念頭に、ポイントプログラムを見直す企業が増えているということです。
2.従来のポイントプログラムに隠された“前提”
私が小売企業でポイントプログラムを運用していたのは、ポイントカードの揺籃期。この時期は、明確に顧客の囲い込みが目的でした。他社より自社を利用していただく差別化の武器として、店頭でのカードおすすめを推進したものです。購入金額に応じてICカードにポイントが貯まり、1ポイント=1円で会計時に利用できるタイプのもので、会員情報の登録は不要でした。
その後、各社がポイントを導入しコモディティ化した結果、ポイントで囲い込む効果は低下しました。消費者が各社のポイントを賢く使い分けるようになったためです。ポイントは販売促進策としての色彩を強めていきました。
例えば、特定期間のみポイントの付与率を上げたり、重点的に販売したい商品にボーナスポイントを付ける施策です。狙い通り「ポイント××倍」の期間はレジ通過客数が増加し、ボーナスポイントを付けた商品の販売は伸長しました。
しかし中長期的に見ると、売上に貢献したかは不明瞭です。需要を先食いし、購入商品をスイッチさせただけの可能性を排除できないからです。ポイント利用の歩留まりを考えると、値引よりも利益を圧迫せず、一定の効果がある販促施策、という位置づけであったのかもしれません。
このようなポイントプログラムは、下記の隠れた前提を孕んでいると思われます。
前提1: 顧客と接点を持てるのは購買時である。
前提2: 顧客を個々に把握して対応することは不可能である。
これらの前提に従えば、「商品を購入する際に、一律のインセンティブを設ける」ことが有効な施策に成り得ます。しかし前提が覆れば、プログラムの内容も変化するのです。
3.ポイントプログラムの構成は、時代によって変化する
長らく購買時の金銭的インセンティブで関係性を構築する、狭い範囲での活動が主流でしたが、今や従来のポイントプログラムで想定されていた前提は覆り、小売りは購買時以外でも顧客と接点を持ち、個別の対応が出来るようになりました。
これは、言うまでもなく、スマートフォンの影響です。スマホアプリを通じ、時間と場所を限定せずに情報の受発信ができたり、購買や行動の履歴に応じて個別の対応が可能になったわけです。
本来のポイントプログラムは下記のような「関係性の構築」「顧客の把握」という目的で構成されています。
現在私はコンサルタントとして、狭い範囲でのポイントプログラムから脱し、本来の目的に沿ったポイントプログラムを志向するお客さまのご支援をさせていただく機会が増えています。
既存のプログラムを廃止して新たに構築するケースもあれば、既存をベースにプログラムを進化させるケースもあり、アプローチは様々です。しかし、顧客とのエンゲージメントを強固にし、LTVを高めたいという主たる目的は共通しています。
4.ポイントプログラム再構築時の、よくある課題とは
ポイントプログラムによくある課題を見てみましょう。ここでいうポイントプログラムは、購買でポイントが貯まり、1ポイント=1円で買物に利用できるベーシックな内容を指しています。
課題① ライトユーザーの再利用に繋げたい
従来のポイントプログラムは、ポイントを貯めるまでが大変です。例えば、購買100円につき2ポイントが貯まる場合、1,000円購入で20ポイント、1,000ポイント貯めるのに50,000円分購入する必要があります。ヘビーユーザーにとっては価値ある内容でも、初回利用を次回利用に繋げる動機としては弱そうです。
CRMではよく「パレートの法則」が引き合いに出されます。「上位20%の顧客が80%の売上を生み出す」という内容です。そのため、上位顧客を優遇するのがすなわちCRMである、という考え方が根強いように思います。これ自体に異論はないのですが、その背景には上位20%くらいの顧客しか把握できないだろう、という旧来の常識が影響している面もありそうです。つまり、1~2回程度利用したことがある顧客は膨大すぎて、識別も個別の対応も不可能という捉え方です。
一方でデジタルマーケティングの分野では、「F2転換」が重要と言われます。(F=Frequency)F2転換とは、新規顧客を2回目の利用に繋げることを指します。デジタルを活用すれば、利用頻度が少ないライトユーザーに対しても、個別の対応が可能であることを指しています。例えば、初めて利用したアプリ会員に限定し、次回利用可能なデジタルクーポンをしかるべきタイミングで送ることができます。
これら2つの要素を掛け合わせ、ボリュームゾーンである新規顧客の利用頻度を引き上げつつ、ヘビーユーザーの育成へと繋げることが、ポイントプログラム構築の重要なテーマになります。
課題② 購買以外の行動も促進したい、行動情報も欲しい
「購買以外の行動」とは、例えば、ふらっと来店し、会員情報を入力してくれる……といった、企業にとって理想的な顧客行動を指します。理想的な行動がゆくゆくは購買に繋がるという思惑以外に、行動情報の取得、新たな顧客接点としても重要視されています。そのため、行動を促進するために、行動へのポイント付与を検討する企業が増えています。
行動にポイントを付ける仕組みを検討する中で、1ポイント=1円という使い方が課題として浮上することがあります。もし100円購入で2ポイント付与という運用にしている場合、店舗チェックインに対して10Pを付けると、それは商品購買時の10円引きを意味し、500円分の購買と同等の還元になります。
費用対効果の観点で捉えると、行動に付与するポイントは慎重にならざるを得ません。しかし、極端に小さい単位のポイントを付与したところで、行動を促す効果を生まないというジレンマに陥ってしまいます。
「行動にポイントをつけるプログラム」を構築する場合、1ポイント=1円という従来の利用方法をゼロベースで見直すことが多いです。その上で顧客にとって魅力があり、企業側の意図を反映できるポイントプログラムを構築していくことになります。
課題③ “お得”一辺倒から脱し、ファンを育成したい
EDLPの様な戦略は別として、値引での集客を恒常化させたい企業は少ないと思われます。しかし、ポイントプログラムの多くは、「どのような顧客も、たくさん購入するとお得になる」に終始しがちです。
そのような背景から「金銭的インセンティブ」と「非金銭的インセンティブ」を適正に使い分けて、会員増加からファン育成に繋がるプログラムを模索するケースが多いようです。
「非金銭的インセンティブ」とは、例えば、新商品の早期予約や、限定商品の優先購入、限定イベントへの参加等、です。とある消費者アンケートでは、ライトユーザーほどセールへの関心が強く、ヘビーユーザーは特別な待遇や体験を求める結果が出ています。
業態にもよりますが、ポイントプログラムのインセンティブを顧客に合わせて提供できることが、ファンの育成に繋がる鍵なのかもしれません。インセンティブを顧客が自ら選択できる様な仕組みを構築するのも、有効な施策のひとつです。
5.ポイントプログラムの点検
ロイヤリティプログラムの構成要素であるポイントプログラムは、販促施策に留まらない顧客とのコミュニケーション手段としての意味合いが強くなってきました。その理由は、顧客のニーズと行動が変化したからに他なりません。自社のポイントプログラムが本来の目的に沿ったものになっているか、定期的に見直す必要があるのかもしれません。
重要な顧客接点であるポイントプログラムが旧態依然としていることで、コミュニケーションが滞り、顧客が分からなくなった……というような事態は避けたいものです。
執筆者プロフィール
渡邊⼤吾 ビジネス・業務コンサルタント
2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。
≪⽀援実績≫
・OMO/EC︓グラニフ、⼤⼿⽣活⽤品メーカーのD2C施策検討等
・CRM︓⼤⼿アパレルの会員制度設計等
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