皆様のスマホにあるアプリ群の中で、最も長くホーム画面に鎮座しているアプリは何でしょうか? インストール後の3日間で平均70〜80%が使われなくなると言われる、厳しいスマホ内競争。そんな中で長期間、“その座”を守り続けているアプリには、やはり相応の理由があります。この記事では「ゲーミフィケーション」の切り口で、継続利用されるアプリを考察してみたいと思います。
1.ランニングを習慣化させた Nike Run Club
趣味嗜好系にも関わらず、10年に渡り私のスマホ画面の一等地を占有するアプリ。それは、ナイキのランニングアプリ「Nike Run Club(以下、NRC)」です。
NRCは主にランニングの走行距離やタイムをトラッキングするアプリです。気付けば6800kmを併走するパートナーになっていました。特に運動習慣がなかった私ですが、同アプリから継続的なランニングを動機付けされてきたのです。私にランニング習慣を根付かせたNRCは、どのような仕組みと機能を持っているのでしょうか。
この疑問を「ゲーミフィケーション」の視点で解説していきたいと思います。なぜならNRCは、ゲーミフィケーションの仕組みを上手く利用し、機能開発されている可能性が高いためです。
2.ゲーミフィケーションとは?
「ゲーミフィケーション」とは、ゲームのノウハウや要素を、ビジネスのような他の分野に応用する取り組みを指します。
ゲームをしていると、時間を忘れて没頭したり、一度止めてもすぐまた始めてしまう、というようなことがありますよね(その後はたいてい怒られるが)。そうした状態を生み出す要素を抽出し、ゲーム以外の分野に応用するという視点での取り組みです。
ゲームを構成する要素には、「目標」「可視化」「報酬」があります。プレイヤーが最終的にボスキャラを倒すゲームで考えてみましょう。
「目標」となる敵を倒すには、プレイヤー自身のレベルアップが必要です。そのために必要な行動や数値が「可視化」されていれば、達成しようする意欲が湧きます。しかも、レベルアップの度に特別な能力や武器のような「報酬」を得ることができれば、飽きずに続ける原動力ともなります。よくゲームをする方であれば、思い当たる要素ばかりではないでしょうか。
またプレイヤーの性格タイプを想定して、タイプ別にアプローチする考え方もあります。
ゲームに夢中になるプレイヤーのタイプは4種類(アチーバー・エクスプローラー・キラー・ソーシャライザー)あり、その特徴を分類したのが「バートルテスト」です。イギリスのゲーム研究者であるリチャード・バートルが提唱した分類法で、下記の図のような分類になります。
これはプレイヤーの分類ではありますが、コーチングのタイプ分けにも通ずるところがありますね。ちなみに、私個人はエクスプローラーの傾向が強めで、好きなゲームカテゴリーもここに寄っていると感じます。皆様はいかがでしょうか?
3.Nike Run Club とゲーミフィケーション
ここまでお話ししてきた「ゲーミフィケーション」の内容を踏まえながら、NRCを考察してみましょう。NRCが「目標」「可視化」「報酬」というゲームの基本要素を抑えているのは言うまでもありません。画面にはランニングの距離、回数、平均ペースが数値とグラフでわかりやすく表示され、記録を更新すれば拍手で迎えてくれます。
しかし、ゲーミフィケーションの視点から見たNRCの機能的特徴はそれだけではありません。NRCは、バートルテストで分類されたプレイヤータイプについて、各嗜好を満たす機能を網羅的に備えているのです。タイプ別に、プレイヤーの心をくすぐる機能を見てみましょう。
■「アチーバー」向け機能
アチーバーは特性として「レベルアップしたい」「強い敵を倒したい」という嗜好が強いです。NRCでは走った距離に応じてランレベルが設定されます。ゲームにおいて敵を倒すとレベルがアップするように、走行距離が伸びるとイエロー、オレンジ、グリーンと会員証の色が変わっていくのです。「あと●●kmで次のマイルストーン(ランレベル)」という表示は、あともう少しがんばろう、という意欲を喚起させる仕掛けになっています。
■「エクスプローラー」向け機能
エクスプローラーは、新たな発見への関心が強く、納得いくまで探求する傾向にあります。NRCのマイページには、特定の行動を達成した際に獲得できるトロフィーの一覧が表示されています。このトロフィーには「週に3回ラン」「12ケ月連続ラン」というベーシックな内容から、「元旦ラン」や「世界を走る」のような変わり種も用意されています。獲得するとグレーのトロフィーに色が付く仕様で、「まだこのトロフィー持っていない」「全てのトロフィーを集めたい」というエクスプローラー心を刺激します。
■「キラー」向け機能
キラーはとにかく他者との競争が好きで、戦いで相手に勝ちたい、打ち負かしたいという情熱を持っています。そんなキラーに打って付けの機能が、自身の走行距離を友だちと共有し、ランキングされる機能です。NRCユーザーを友達登録し、毎月の走行距離を競い合うことができます。根っからのキラーであれば、「今月はアイツに負けている。今から行くぞ!」と奮起する材料になるでしょう。
■「ソーシャライザー」向け機能
ソーシャライザーは他者と交流し、頼られることに喜びを感じるプレイヤータイプです。NRCにはランの記録を画像付きで投稿できるSNS機能があります。SNSを通じて自身のお薦めのコースを紹介したり、「いいね」やコメントで励まし合ったり、他ユーザーと交流しながらランニングを楽しむことが可能です。
以上が、バートルテスト分類によるNRC機能の解説です。プレイヤータイプは特定分類に偏るものの、全ての要素を少なからず持ち合わせている方が多いかもしれません。私自身、おそらくその傾向があり、これら全てのタイプについて利用を促す仕掛けを持っているNRCだからこそ、継続利用しているのだと感じます。定期的にNRCに触れることで、私とNIKEとのエンゲージメントは強化されてきました。ランニングする際のシューズ、ウェアはNIKE一色、といったところです。
4.自社の会員アプリはどうなっている?
スマホアプリは顧客接点としての重要度が高まり、各社がこぞって強化している分、生存競争(継続的に利用されるか否か)が激化しています。
ゲーミフィケーションとNRCは一例に過ぎませんが、シンプルな会員証やポイントだけではなく、ユーザー視点で楽しみながら使用できる仕掛けがないと、早々に忘れ去られてしまうかもしれません。
さて、自社の会員アプリには、どのような継続化、習慣化の仕掛けがあるでしょうか? 会員アプリのユーザー特性や継続利用に繋がる機能について、本記事が改めて考える契機となれば幸いです。
執筆者プロフィール
渡邊⼤吾 ビジネス・業務コンサルタント
2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。
≪⽀援実績≫
・OMO/EC︓グラニフ、⼤⼿⽣活⽤品メーカーのD2C施策検討等
・CRM︓⼤⼿アパレルの会員制度設計等
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