小売り×DXの気になるニュースを、リテール業界の現場経験が豊富なプリズマティクスのコンサルタントが毎月チョイスしてお届けする「今月の注目ニュース」。
シニアコンサルタントの金子が、DXが進む中だからこそ注目したい、「接客」に関する3つの事例をチョイスしました。日々、小売りDXの課題に向き合う実務家の視点から、コメントを交えて業界の潮流をご紹介します。
目次
1. AIによるバーチャル試着でコンバージョン率が1.5倍「Zoff Virtual Counter」 2. ビームスのスタッフによる個人商店「B印MARKET」 3. 販売を主目的としない「b8ta」の接客 4. まとめ1. AIによるバーチャル試着でコンバージョン率が1.5倍「Zoff Virtual Counter」
●顧客が抱えている「フレームの種類が多すぎて選べない」「試着したフレームが自分に似合っているかどうか分からない」といった悩みを、バーチャル試着で解決
●2021年12月、スマホで眼鏡の試着ができる「Zoff Virtual Counter」を公開
●接客経験豊富なスタッフ720名が17万件の顔画像を評価し、ユーザに合った眼鏡を提案する独自AIを開発
ECでは受けられない接客をAIによって実現し、ECのコンバージョン率がアップさせる施策です。一方で、「Zoff Virtual Counter」導入後についてのインタビュー記事からは、実店舗へ来る前にバーチャルカウンターにて“試着”し候補を絞り込んでいる顧客が、想定以上に多いということが語られています。
ECの商品一覧が「商品カタログ」代わりに利用され、リアル店舗への送客になっているケースはよくありますが、Web接客がECで完結せずにリアル店舗への送客になっているのは面白いポイントです。顧客は購入前の情報取得や、選択の場面においてもリアルとデジタルを使い分けており、OMOが進んでいるのを実感する事例です。
2. ビームスのスタッフによる個人商店「B印MARKET」
●2022年2月、ビームスのスタッフが個人商店を運営する「B印MARKET」を開始
●“店主”個人の視点で商品の情緒的価値とストーリーを紹介、「誰が言うか」で“目利き力”を押し出す
●スタッフの実体験をもとに、ベストなアイテムを集めた「B印MARKET AWARD」等のセレクトも展開
スタッフによるスタイリングや、SNSを使ったスタッフとお客様との繋がり、ライブコマース等、アパレルでのスタッフを軸にしたデジタルでの仕掛けは多くあります。その中で「ビームス」の屋号を名乗らず、「スタッフ個人」を前面に出しているのが「B印MARKET」の特徴です。
2022年10月現在、私自身は(おそらくこれを読んでいる皆さんも)、友人、知人とのコミュニケーションは、実際にリアルで会うよりもSNSを中心としたデジタルコミュニケーションが多くなっています。お客様とスタッフが1to1でコミュニケーションを取る場を「個人商店」といった形でつくり上げ、リアルよりも、ある意味では深い繋がりをデジタル上でつくり上げているのが興味深い事例となっています。
3. 販売を主目的としない「b8ta」の接客
●顧客と新しいプロダクトの接点を提供する体験型ストア「b8ta」(https://b8ta.jp/)が日本各地でポップアップショップを展開中
●ビジネスモデルは、出品者に来場者の体験データを詳細に提供する「RaaS」
●体験型店舗の開業、運営を支援する事業「by b8ta」の提供も開始
2015年に米パロアルトでオープンした「体験型ストア」b8taは、「Retail as a Service」のパイオニアとして業界を牽引してきました。2022年2月にb8ta Japanが日本における全てのライセンスを取得し、現在はポップアップストア展開などを精力的に行っています。テック企業が考える、リアル店舗の「接客のあるべき姿」は、小売り企業の考えるものとまた違った視点を提供してくれます。
スタートはテック企業であるにも関わらず「テクノロジー」ではなく「人」が差別化ポイントとなっているb8ta。スタッフの役割は「売る」ではなく「体験してもらう」ことです。商品の情報はネットから得ることが出来、客観的な評価や口コミも友人・知人からSNS等で知ることが出来る今、リアル店舗の存在意義は「ネットではできない体験」の提供なのかもしれません。
4. まとめ
リアル店舗での接客の一部の機能をデジタルで実現し、ECのコンバージョンだけでなくリアル店舗への送客を増やしているZoff、リアルだけでなくECの場を使ってお客様とスタッフのコミュニケーションを深めるビームス、リアル店舗の接客の目的自体を変えているb8ta。
「DX」というと業務負荷の軽減にとどまったり、「OMO」というと購買パターンを増やすことで終わったりしがちですが、「接客」こそDXで大きな効果を得られるかもしれないと気づかされる事例ばかりでした。「売る」だけを目的にせず、お客様と「繋がる」ことを目的に接客を捉え直すことで、新たな顧客体験を創り出せるのではないでしょうか。
(構成・編集=プリズマ編集部)
執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント
2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等
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