プリズマジャーナルTOPなぜLTVが重要視されるのか?~CRMとの不可分な関係~

なぜLTVが重要視されるのか?~CRMとの不可分な関係~

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LTVに関連したご相談をいただく機会が非常に多くなっています。入り口としての課題は様々ですが、目的が「LTVの向上」に収斂するようなケースです。LTV向上は売上増加に繋がりますが、なぜ直接的な売上ではなく、LTVを指標とするのでしょうか?

当記事は、LTVの概要と重要性を解説する内容となっています。また後半では向上策としてのCRMについても触れていきます。

1.LTVとは? LTVの計算式

LTVとはLifeTimeValueの略で、顧客生涯価値を指します。A店やB店の売上や利益ではなく、ひとりの顧客が企業にもたらす価値の総計(売上や利益)のことです。

名称には「生涯」と入っていますが実際には特定の期間を指すことが多く、利益率を加味しないシンプルな計算式は下記のようになります。

LTV=平均顧客単価×年間平均購入回数×継続年数

平均顧客単価1,000円、年間平均購入回数10回、継続年数5年の場合、LTVは1,000×10×5=50,000円となります。つまり、ひとりの顧客からいかに長く多く、売上を獲得できるかの指標となります。

2.LTVが重要視されている理由

昨今、LTVが指標として重要視されているのは、3つの変化が影響しています。

変化①:新規顧客の獲得が困難になった
変化②:LTVを正確に測定できるようになった
変化③:LTVによりコストの適正値を判断できるようになった

それぞれについて解説していきます。

変化①:新規顧客の獲得が困難になった

多くの市場が成熟化し、なおかつ人口減少が続く日本において、新規顧客を獲得し続けるのは困難なことと言えます。このようなマクロな視点を引き合いに出さずとも、従来の集客策が以前ほど機能しなくなった感覚はないでしょうか? 特に店舗を増やし続けて売上規模を拡大してきたビジネスでは、個店の客数減少を目の当たりにしているのかもしれません。

上記のような変化から、新規顧客獲得一辺倒の施策を見直し、既存顧客により長くより多く利用していただくためのLTVが注目されるのは極めて自然な流れです。短期的な売上ではなく、中長期的なLTVをあえて志向する企業が増えてきた背景がここにあります。

変化②:LTVが正確に測定できるようになった

LTVの測定には、リアル店舗やECを使い分けていても、ひとりの顧客の購買行動として補足できる状態が前提です。具体例としては、ID登録したデジタル会員証をレジ決済時に提示し、同IDでログインしてECを利用するような一連の購買行動です。ここからデータを取得、蓄積し、LTVを測定します。顧客情報を統合し、チャネルを意識しないシームレスなUXを実現する、オムニチャネルやOMOがイメージしやすい世界でしょう。

LTVという概念自体は以前から存在しましたが、スマホの普及やデジタル技術の進展という変化により、指標としての正確性を確保できるようになりました。主にオンライン、オフライン両方のチャネルを持つ小売を念頭に、これまで正確に把握し切れなかったLTVを捉えられるようになりました。LTVの正確な測定が可能になったことが、指標として採用する企業の増加に繋がっています。

変化③:LTVによりコストの適正値を判断できるようになった

LTVを把握することで、新規顧客獲得にかけるコストの適正値を判断できるようになってきました。変化①で触れた通り、新規顧客の獲得は容易ではなく、マーケティングコストの負担も過大になりがちです。その適正な判断のために、LTVが利用されているのです。

新規顧客の獲得コストは、広告に限定すればCPA(Cost per Acquisition:顧客獲得単価)、マーケティング全体を捉えればCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得費用)のような算出方法があります。向上が期待できるLTV(この場合は利益率加味)に対し、獲得コストであるCPAやCACが上回ってしまえば赤字であるし、下回っていれば黒字ということです。つまり、かけるコストの上限をLTVにより規定することが可能になります。

この章のまとめです。LTVが重要視されている理由は、新規顧客の獲得が困難な状況下で、既存顧客から売上を得る活動の指標として有効であるからです。なおかつ指標としての正確性が確保され、適正なコストの判断にも利用できることから、その有用性が増しています。

3.LTV向上の事例(サンリオ株式会社の取り組み)

指標としての重要性が増しているLTVですが、その向上策を考えてみましょう。

LTV計算式の構成要素から、「顧客単価を上げる」「購入頻度を上げる」「継続利用期間を長くする(離脱させない)」に対し個々の打ち手を積み上げる考え方もありますが、ここではゴール(LTVが高い顧客)から発想してみたいと思います。

「自社にとってLTVが高い顧客」とは、どのような存在でしょうか? それはおそらく質量ともにコミュニケーションが濃密で、自社へのロイヤリティが高い顧客ではないでしょうか。いわゆるエンゲージメントが成立している関係性の顧客です。

こうした関係性の構築および深化を目指す取り組みがCRM(Customer Relationship Management:顧客関係性管理)になります。LTVを向上させるにはCRMが有効であり、CRMの目的はLTVの向上である。両者はこのような切っても切れない不可分な関係です。CRMについての詳細は下記の記事をご参照ください。

ここで、キティちゃんを代表とする魅力的なキャラクターを扱うサンリオ株式会社の取り組み事例を紹介させて頂きます。サンリオは、2020年7月から「Sanrio+(サンリオプラス)」という会員プログラムでCRMの強化をはかっています。この取り組みにはLTVの向上につながる2つの特徴が存在します。

サンリオは複数ある顧客IDを統合することで顧客理解の土台を作り、効果測定指標としてのLTVを有効な状態にしました。さらに経済的インセンティブのみに頼らない、サンリオならではの体験に導くポイントサービスで、関係性の深化をはかっています。

顧客ID統合による顧客理解の土台作り

サンリオでは「Sanrio+」導入を契機に、顧客IDの統合を始めました。IDの統合を進め、購入商品や来店頻度等のデータを一元管理し、顧客ひとりひとりを理解するためです。同時にLTVを測定可能にするための下地ともなります。

背景には、各チャネルで併行して運用されていた会員システムにより、「サンリオファン」の顧客全体像が見えないという課題が存在しました。こうした課題を既存システムのAPI連携等で解決した「Sanrio+」は、リリースから3ケ月で60万人のID統合を実現し、1年以上が経過した2021年8月インタビュー時点で90万人以上の登録者数となっています。

ファンの育成に繋がるポイントサービス

「Sanrio+」ではチャネル共通のポイントサービスを展開しており、購入や行動で「スマイル」(ポイント単位)を貯めることができます。スマイルは買物時に1円として利用する性質のポイントではなく、様々なクーポンと交換する形で利用します。会員が能動的にインセンティブを選択するサービスです。

当サービスは、テーマパーク利用時にスマイルが付与されたり、獲得したクーポンでイベントに参加できるような、体験を重視した内容が特徴的です。単純なお得感だけではなく、サンリオならではの体験へと導き、ファンを育成する制度設計となっているのです。こうしたファン視点のサービスが「Sanrio+」のIDの統合促進、会員数増加に寄与しました。

「Sanrio+」は弊社プリズマティクスがAPIプラットフォーム『prismatix』をご提供するとともに、制度設計コンサルティング、システム構築支援を行わせていただいた案件になります。詳細は支援・導入事例に記事がありますので、ご参照ください。

4.まとめ

ひとりひとりの顧客を軸としたLTVという指標の重要性は、今後もより一層増していくものと思われます。なぜなら、企業にとってはLTVの向上が持続的な成長の要諦になりますし、顧客はパーソナライズされた自分だけのサービスをより一層求めるようになるからです。

市場と顧客の変化は加速度的に進み、ターゲットの粒度はマスからグループ、さらに個人にまで細分化されつつあります。指標としてのLTVを自社の活動に取り入れ、向上策としてのCRMを強化することは、多くの企業にとって喫緊の課題といえるのではないでしょうか。

渡邊 ⼤吾 執筆者

執筆者プロフィール
渡邊⼤吾 ビジネス・業務コンサルタント

2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。
≪⽀援実績≫
・OMO/EC︓グラニフ、⼤⼿⽣活⽤品メーカーのD2C施策検討等
・CRM︓⼤⼿アパレルの会員制度設計等

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