プリズマジャーナルTOPDXの本質を見据えた、小売業界「内製化」の在り方とは [今月の注目ニュース]

DXの本質を見据えた、小売業界「内製化」の在り方とは [今月の注目ニュース]

小売り×DXの気になるニュースを、リテール業界の現場経験が豊富なプリズマティクスのコンサルタントが毎月チョイスしてお届けする「今月の注目ニュース」。

今月はシニアコンサルタントの金子が、「DX」と「内製化」というキーワードから注目したニュースをチョイス! 日々、小売りDXの課題に向き合う実務家の視点から、コメントを交えて業界の潮流をご紹介します。

1. ビックカメラ、内製化でDX推進へ大きく舵を切る

●ビックカメラが2022年6月13日に「DX宣言」を発表
●店舗とECのシームレスな結合により顧客体験を向上させる「OMO戦略」の実現を目指す。
●基幹システムをAWSへ移行、また「Salesforce Lightning Platform」 「BizRobo!(RPA)」を導入することで、システム開発の内製化を推進するとのこと。

SalesforceのPaaSと、API連携を可能とするMuleSoft(ミュールソフト)。この2つを利用することでローコード開発環境を構築、IT人材を採用し内製化して、OMOを中心としたDXを推進する体制を整備するという発表ですね。

現在、小売業の顧客との接点は日々変化し続けています。これに対応するため、また新たなサービスの提供スピードをあげるために、API×PaaSの組み合わせでOMO戦略を中心に内製化を図るのは理に適っています。

また、「市場変化に合わせた素早い対応が必要な分野にフォーカスして内製化を進めていく」という印象を持ちました。ローコード開発が可能なツール選択も含め、非常に現実的な判断をされていると感じます。

2. ニトリ、DX推進を担う「デジタルベース」設立で内製強化

● ニトリが、グループのIT・デジタル施策を牽引するための子会社「デジタルベース」を設立。今後のDX戦略を担う拠点となる。
● 同グループはもともと内製システムを強みとしているが、今後更にIT・デジタル人材、データサイエンティスト等の採用を強化。
● DX推進により、新たな購買体験の提供、今まで以上の広範なバリューチェーンの効率化実現が期待されている。

ニトリグループの掲げる、「住まいの豊かさを世界の⼈々へ提供する。」というロマン(志)。これを実現させるために、システムの内製は重要な位置を占めていると認識しているニトリ。「デジタルベース」設立で、元々の自前主義をさらに進化させることを選択したことが見て取れます。システム開発だけでなく、システム運用、インフラ設計等、ITの全領域まで内製化を進めるため、採用強化も大きく発表されました。

同グループは求める人材像に「4C主義」を掲げています。Change(変化)、Challenge(挑戦)、Competition(競争)、Communication(対話)──これら4つのに共感し、かつ、ニトリの掲げるロマンを理解したうえで、小売の感覚を持った大規模なIT部門をどう構築していくのか? この難題を考えていくことが、“下請けIT部門”ではなく、“チャレンジできるIT部門”になるための鍵となりそうです。

3. トリドールホールディングス、SaaSフル活用でDX推進

● トリドールは2021年に「DXビジョン2022」を発表、新規ビジネスモデルの創出や既存ビジネスモデルの深化に注力するためDX推進を宣言。
● バックオフィス業務はアウトソーシングすることを基本方針とし、自社オペレーション業務を抱えない意向とした。
● IT機器・ソフトウェアは「サブスクリプション、ノンカスタマイズ」の方針でクラウドとSaaSの組み合せで業務システムを構築。

内製化推進を発表したビックカメラ、ニトリに対して、「SaaSとBPOの組み合わせ」を強化し、内製化はしないとしているトリドール。一見、DX推進の流れと逆行するように見えますが、これが「スピード感を持ったDX実現」のための動きであることは間違いありません。

トリドールではDX推進を強化するため、2020年10月にIT本部をBT(ビジネストランスフォーメーション)本部へ改組、同本部内にDX推進室を新設しました。IT部門がDXをリードすることで、現状の改善に留まらず、目指すべき新しいソリューションや新しいシステム構築を検討することができます。

体制づくりという根幹から「DXビジョン2022」に取り組むトリドールは、DX推進を「経営課題」として捉えることのできる組織である、と言えそうです。

4. まとめ

エンジニアを採用して内製化に踏み込んだニトリ、ビックカメラに対して、内製化はせずにSaaS/BPOを選択したトリドール。一見180度違う方針に見えますが、スピード感をもってDX推進するという、方向性は同じものです。エンジニアを雇うのか、ITベンダーを適切に配置して活用するか、という手段の違いがあるだけです。

肝心なのは、自社にとって最適なデジタル化、IT施策を、自身でデザインできること。その為の組織を構築し、DXを最速で推進することです。エンジニアを採用して内製化するだけでは、DX推進は実現されません。DX/ITを経営課題として捉え、IT部門がDXをリードすることが何よりも重要なことだと思います。

(構成・編集=プリズマ編集部)

⾦⼦ 傑 執筆者

執筆者プロフィール
金子 傑
シニアコンサルタント

2000年イオングループのミニストップ入社。システム部⾨にてECサイト、DWH、商品マスタ等のPMを担当。2011年以降はシステム部門を離れ、九州営業部長、社長室長、サービス・デジタル推進部長、マーケティング部長等を歴任。2018年11月にクラスメソッドに参画。OMO/EC、CRMを中⼼に、事業戦略から業務設計、PMまで幅広い領域を担当。
【支援実績】
OMO/EC:アンファー、グラニフ、⼤⼿スーパー、雑貨⼩売店(戦略策定、業務設計)、大手生活用品メーカー(D2C)等
CRM:サンリオ、大手アパレル(会員制度設計)等

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