プリズマジャーナルTOPCRMとは? ~全体構造からツールや機能を理解する~
CRMとは? ~全体構造からツールや機能を理解する~

CRMとは? ~全体構造からツールや機能を理解する~

# 会員基盤 # CRM # CDP # BIツール # MA # ロイヤリティプログラム # LTV

「CRMとはつまり情報管理ツールのこと?」「CRMを始めるとは、ツールを導入すること?」CRMについて情報収集する中で、こんな疑問が生じたことはありませんか?

当記事は広義のCRMの全体像を、その構成要素および機能と共に整理し、各要素の役割や関連性について理解を深める内容になっています。

1. CRMとは? ツールのこと?

広義のCRM(Customer Relationship Management:顧客関係性管理)は、その全体像を把握していないが故に、構成要素を正しく理解できないということが起こりがちです。上記の疑問は構成要素であるツール単体でCRMを捉えようとし、理解が進まない一例といえます。CRMという言葉が表す範囲の広さは、時として「あなたは今どのCRMについて話していますか?」という確認が必要なほどです。

2. CRMの全体構造からツールや意味を理解

まずCRMとは?の問いに対して、本記事でのアンサーを下記のように定義します。

顧客を識別・把握した上で、個客が価値を感じられる関係性を、構築・深化させる活動

この定義では前提として、情報により識別された顧客を「個客」として表現しています。

そして、この個客の傾向、特性を把握し、個別のコミュニケーションをはかる活動をすなわちCRMと位置付けています。逆の考え方が顧客をマス(大衆)として捉え、マスに対し画一的なアプローチをする手法で、マスマーケティングはこれに該当します。その意味でCRMは個客を相手にする、One to Oneマーケティングがベースとなります。

具体例で考えてみましょう。

例えばラーメン店の経営を始めて、常連の顧客がついてきた頃とします。気心知れて簡単な会話をする仲になり、常連Aさんの名前も顔も認識した状態になりました。(顧客の識別)

そして、Aさんはいつもビールを注文することに気付きます。(個客の把握)

そこで、おつまみとして人気のメニューをお勧めしてみました。Aさんはそのメニューを気に入って注文してくれるようになり、メニューのフィードバックを貰ったりもします。(個客とのコミュニケーション)

この一連の活動がまさに個客を前提とし、関係性を築いたCRMになります。

 

図①_企業視点のCRM取り組み


しかし、日々の客数が数百人、数千人になってきた時に、同様の対応は困難です。
そこでシステムによる対応が必要となってきます。CRMのためにシステムが担う機能は、基本的に例でラーメン店主がやっていたことと一緒で、「顧客の識別」「個客の把握」「個客とのコミュニケーション」です。各機能ごとの代表的なツールと機能が以下になります。

●顧客を識別するツール
【会員基盤システム】
サービスにログインする際のIDやパスワードなどの個客の情報を一元管理するためのシステム

●個客を把握するツール
【CDP】※Customer Data Platform
個客のデータを収集し、管理し、分析するデータプラットフォーム
【BIツール】※Business Intelligence
企業が持つさまざまなデータを分析・見える化して、経営や業務に役立てるツール

●個客とコミュニケーションするツール
【MA】※Marketing Automation
個客の興味関心に合わせたコミュニケーションを可能とする、マーケティング活動を自動化するツール
【レコメンドエンジン】
一定のルールで個客におすすめの商品やコンテンツを提示するツール
【コンタクトセンタープラットフォーム】
顧客からの要望や問合せ等、コールセンター業務を管理するツール

これらツールを適切なインターフェースで連携させてシステムとしてのCRMを機能させます。
記事冒頭で少し触れた「あなたはどのCRMについて話している?」という会話は、CRMに関連するツールが多岐にわたる背景から生まれます。自身が捉える課題の種類によって視点が異なり、念頭にあるツールが別もので、話が喰い違うといった感じです。

図②_課題により異なるユーザー視点

このような各種ツールを導入してまで実現したいことは何か。企業としてCRMに取り組む目的は、LTV拡大のために他なりません。

LTVとはLifeTimeValueの略で、顧客生涯価値を指します。つまり、A店やB店の売上や利益ではなく、ひとりの顧客が企業にもたらす価値の総計(売上や利益)のことです。LTVについての詳細は別記事としますが、成熟市場においてはLTVをいかに高めるかが、持続的な成長の要諦になっています。

ここまでの説明について、CRM像をまとめると図③で表した内容となります。

図③_企業視点のCRM

 

3. ちょっと待った!そのCRM何かが欠けている?!

「CRMの目的は明確になり、取り組みとその実現手段も、全体像として理解できた」としたいところですが、図②の内容は大切な視点が欠けています。もう一度、CRMの定義を確認してみましょう。

顧客を識別・把握した上で、個客が価値を感じられる関係性を構築・深化させる活動

ここまでの内容は「個客が価値を感じられる」という一文がほぼフォローされていません。

取り組み目的や手段はあくまで企業視点で語られたもので、顧客の視点がごっそり抜け落ちているのです。事業戦略はあるものの、顧客戦略が視野外の状態です。ツールを導入したのに、期待したCRMの効果がなかなか得られないという残念な事象の多くは、こうした顧客視点による顧客戦略の不在が原因であることが多いです。

図③に顧客視点を追加したのが図④になります。こちらが真のCRM全体像になります。

図④_CRMの全体像

追加した顧客視点は「参加理由」「行動」「行動契機」で構成されています。これらはそれぞれ、企業視点の「取り組み目的」や「取り組み」の相対として設定されたものです。

なぜ相対関係で表しているのか。それは企業の思惑と顧客のニーズが必ずしも一致しないためです。例えば、企業はLTV拡大のために顧客の情報を収集しようとしますが、LTVのために自分の情報を積極的に企業に渡したい顧客はほぼいません。情報を渡すことで将来的に、利用するサービスや製品の品質が向上するとしても、喜んで自身の情報を入力したり、行動データを取って欲しいと考える顧客は極めて稀でしょう。

4. 顧客視点のCRM 会員制度・ロイヤリティプログラム

CRMの起点は顧客を識別することです。識別には顧客の情報が必要で、情報提供の行動を促す仕組みが不可欠となります。ここで登場するのが会員制度であり、ポイントを代表とするロイヤリティプログラムです。良い会員制度は、新規入会者数を増やし、積極的に長く利用する会員の層を厚くします。制度の評価基準は主に以下の3点になります。

 

  • ロイヤリティプログラムの充実

購買金額に応じてポイントが付与され、そのポイントを買い物に利用できるようなポイントプログラムが代表的。購買金額の多寡で会員をランク付けし、ランク別のインセンティブを用意するケースもある。お得感を醸成するような、顧客にとっての経済的メリットを謳うことが多い。

  • 会員限定機能の充実

会員登録をすればオンラインで買い物ができる、あるいはモバイルオーダーが利用可能になる、というように利用を会員に限定した機能を指す。限定機能は入会動機になり得る上に、機能を継続して使用する場合、関係性の維持に繋がる。

  • 会員ならではの体験提供

会員のみが参加できるイベントやワークショップを催す。新商品を先行で体験してもらったり、企業スタッフや他優良会員との交流の場を用意する。体験を通じて会員としてのステータスが満たされ、帰属意識を高める効果がある。

上記の要素で構成される会員制度の接点として、アプリを用意する等も含め、顧客に「この企業と繋がっていることに価値を感じる」と思わせなければ有効なCRMにはなり得ません。その理由は繰り返しになりますが、企業の視点と顧客の視点が必ずしも一致しないためです。

弊社にCRMのご相談をいただく際に、入り口は具体的なツールの話だったものの、結果的に会員制度まで検討範囲が広がることがあります。それはCRMを機能させるために、欠落箇所がないかを確認しながら進める本質的な提案の所以なのです。

 

5. 総論 CRMとは?

CRMの重要性は、近年特に高まっており、取り組みを強化する企業が増えています。その背景に、これまでのやり方で思うような成果を得られなくなった事情がある場合、顧客を理解し直す取り組みが必要と考えるのは、当然の帰結なのかも知れません。

今やマーケットの主戦場はマスでも、セグメントでもなく、単一顧客に移行しつつあります。こうした環境において、個客との関係性を重視するCRMは、企業活動にとって不可欠なものになっているのではないでしょうか。

  • CRMとは?

  ・顧客を識別・把握した上で、個客が価値を感じられる関係性を構築・深化させる活動

  • CRMの全体像

  CRMの全体像は企業視点と顧客視点、双方の視点で捉える必要がある。

  企業視点:LTVを高めるために、システムを活用しながら、個客との関係を深める

  顧客視点:制度や仕組みを通じ行動を促進し、自社との繋がりに価値を感じてもらう


<留意点>
ツールの導入時は企業視点の事業戦略として完結しがちだが、顧客視点の顧客戦略を合わせて検討しないと、機能しない可能性が高い

 

渡邊 ⼤吾 執筆者

執筆者プロフィール
渡邊⼤吾 ビジネス・業務コンサルタント

2003年イオングループのミニストップに⼊社。店舗指導の現場経験を積んだ後、営業企画・戦略部⾨で業務効率改善や販売戦略に従事。2016年にMBAを取得後、マーケティング部⻑として商品計画、プロモーション戦略を統括。2019年より新規事業部⻑として飲⾷専⾨店を事業展開。2021年3⽉にクラスメソッドに参画。豊富な現場経験を活かした⼩売および外⾷でのCRM⽀援、業務設計に強み。
≪⽀援実績≫
・OMO/EC︓グラニフ、⼤⼿⽣活⽤品メーカーのD2C施策検討等
・CRM︓⼤⼿アパレルの会員制度設計等

この記事をシェアする
Facebook