プリズマジャーナルTOP“ブランド名”だけでは売れない時代のリブランディング。ブランドが「ブランドに向き合う」必要性とは?

“ブランド名”だけでは売れない時代のリブランディング。ブランドが「ブランドに向き合う」必要性とは?

商品そのものでの差別化が難しくなってきている現在、小売業界では商品の「売り方」だけではなく、ブランドメッセージを伝える、顧客にとって魅力的なコミュニケーションで伝える、商品情報を適切に伝える等、「伝え方」の重要性が高まっていると言えます。

つまり「ブランドに向き合う」ということが、今、改めて求められている時代だと言えるのではないでしょうか。

今回は、私が長年勤めたアパレル業界での業務経験から、ブランドに向き合うことの重要性や意義、また実際に“向き合う”ための具体的なアクションについてお話しさせていただきます。

1.ブランドの“同質化”が招いてしまうものとは

長年“メインカルチャー”として存在してきた、ファッション、アパレル業界。1990年代には約15兆円あった市場規模も2010年には約10兆円になり2021年には約7兆円までに下降しており、売上規模だけでみたら“サブ”カルチャー化しているとも言えそうです。

現在ファッション・アパレル業界は、売上が下がった事による大量廃棄や過剰供給などが特に問題視されています。しかし私は根本的な問題として、業界特有の商習慣と“ブランド”の同質化が大きな要因だと考えています。

・コスト削減のため商品企画をアウトソーシングする企業が増えた、企画力が低下。
・生産背景に商社やOEMメーカーを使用することでデザインが同質化。
・オリジナリティのある商品が作れないため価格競争に陥る。
・どのブランドも同じブランドとのコラボレーションを繰り返す。
・商品が売れないことでセールが常態化し、消費者が不信感を持つ。

多くのブランドにとって、上記のようなことが課題となっているのではないでしょうか。ジェンダーレスやサステナブルなどのキーワードが日々流れている中、表面的にはファッションが多様化しているように見えるかもしれませんが、一種のトレンドにファッション業界全体が同じようにアプローチしているため“同質化”が起こってしまうのです。

2.「ブランド価値」はどこから生まれているのか

お客様が商品の価値を判断するのは価格からだけでなく、商品が作られた背景や生産者の想い、接客の心地良さや店舗の空気感、希少性など様々な要素から成り立っています。「〇〇っぽくて可愛い」「サイズ感がいいんだよね」「やっぱりこの配色が〇〇っぽくて好きなんだよね」など、個々が自分なりの価値を感じ、そのブランドを支持し商品を購入します。

今のお客様は、ブランドに「価値」を感じて商品を購入してくださいます。ブランド名さえあれば売れていく時代ではありません。ブランドの社会や環境に対する取り組み、店頭でのきめ細やかな接客や気の利いたサービス、商品のデザイン性やクオリティ等、様々な側面がありますが、お客様はブランドのどこに価値を感じているのでしょうか。

私自身、アパレル業界では日々の業務に忙殺され、競合他社の情報や足元の数字(予算対比や対前年比)に引っ張られてしまうことがあったことは否めません。ブランドテイストに合わないと分かっていても他社で売れている商品を参考にアレンジして展開したり、売上を作るために安価な商品を企画したりと、ブランド棄損になるような施策を行うことは、今の多くのブランドで起こっている事ではないでしょうか。

このようなことが積み重なることで、お客様の信頼を失い、結果的に“ブランド離れ”を招いてしまいます。

これを避ける為には、ブランドメッセージを明確にし、ブランド価値を再定義し、顧客の商品やサービスに対するニーズを理解し、魅力的なコミュニケーション手法を構築して顧客接点を増やし、ファン(顧客)からの情報に耳を傾け、着実に長期的に、持続的に取り組まなければなりません。そのようなプロセスを「リブランディング」と言っています。

3.ブランドに関わる全てのメンバーと、ブランドについて設計し直す

私自身は、過去に2つのブランドのリブランディングに携わりました。ブランドに関わる全てのメンバーと、要件ごとにワークショップ形式で意見を出し合い、設計していきます。

「リブランディング」では、ブランドのコンセプト設計、キービジュアルの再考(ロゴ、カラーストーリー、フォント)、ペルソナ設計、ターゲティング設定、データ分析に基づいた商品構成の見直し(アイテム構成、プライシング、サイズ展開など)ターゲット市場の特定、コミュニケーションPR戦略の構築など、多岐に渡る要素を再設計しなければなりません。

普段時間をかけてブランド運営を振り返りディスカッションする機会はなかなか作ることが出来ません。会社から「リブランディングするぞ」と号令がかかってからではありましたが、ブランドを定期的に深堀りしてモニタリングし、その重要性を痛感しました。

ブランドの未来(あるべき姿)やファン(顧客)にとって魅力的な商品は何なのか、求められているサービスは何なのか、どういう伝え方がブランドらしいのか。これらを改めて再考し、長期的に取り組み、着実な改善と持続的な努力を続けることで、ブランド価値は積みあがり個性のあるブランドがマーケットに増えていくのではないでしょうか。

もちろん事業ですから営利の追求は重要ですが、「ブランド価値=売上規模」ではありません。ブランドを大切に育てることが結果的に利益をもたらす……という視点を持ち続ける必要があります。この記事が、市場価値が保たれているブランドと下がっているブランドの違いは何か、改めて考える機会になれば幸いです。

西田 信義

執筆者プロフィール

西田 信義
コンサルタント

2002年FREE’S INTERNATIONAL(現TSIホールディングス)に入社。店舗運営管理、営業MDを担当。Barbieなど海外ブランドの営業部長や国内ブランドの事業責任者を歴任。株式会社三陽商会にて新規事業開発、株式会社マッシュスタイルラボにてMD担当部長など事業推進に従事。ブランドディレクション、製販計画の策定など中心に大手アパレルにてSCMを担う。D2Cのベンチャー企業、株式会社TOKIMEKU JAPANのCOOを経て、2023年9月クラスメソッドに参画。

この記事をシェアする

Facebook